【 Tone 1.滋賀 にほの海 】Phrase.7 鈍穴の庭の塗壁 ~ This muddy vesture of decay(この朽ちゆく泥の衣)~
- Aureilia

- 6月5日
- 読了時間: 8分
更新日:6月20日
「ウェールズじゃライム(漆喰)ばかり塗らされたが、俺が日本の親方の元で左官職人やってた頃は、基本的に土壁がメインだったんだ。だからこそ、この埋石(うめいし)の配置のヤバさがわかるぜ…」
櫂は、一見すると単に石が埋められただけのような見どころのない空間を、186cmの長身を折りたたむようにして凝視していた。服に土がつくことすらいとわない、這いつくばった姿勢に、佳帆は内心『出た…。妖怪ぬりかべ…』と独り言ちていた。
「一体何がすごいの?」
「ここ。見てみろよ。石を埋めるってことは、その下にさらに深い穴を掘らないといけないだろ?見えてるとこなんて、ほんの一部だからな」
櫂は、手で曲尺(かねじゃく)のようにL字をつくり、地面と石の高さを測るために人差し指を置いた。
「ここは3cm。こっちは4cm。あのクロスロードのポイントになってる大きな伽藍石は、地面とほぼレベルを合わせて平行に配置しながらも、取り囲む土でわずかな高低差をつけて表情を出してる。大きな石を置くと、目がそこに吸い寄せられるから、景色が単調にならないように変化を持たせてるんだよ」
「わぁ、ほんまや!そんなとこまで、気を付けて見たことなかったわ。いつも、お茶会でこけへんように歩くので精一杯やったから…」
「そう!その歩幅こそが庭師の『視点』だ」
膝を打って櫂が答える。
「視点?」
「基本的に、日本庭園の庭石は40cm~60cm間隔で配置するんだ。でも、鈍穴は遠州流の茶を習ってたから、茶庭らしく少し間隔を狭く取ってるところもあるな。あっちは逆にカーブになってて奥が見えなくなってるだろ?」
櫂が指さす方を見ると、低木中木を手前に、大木が並ぶ森めいた奥への導線を、飛び石が誘っていた。
「あれは『大曲り』って言って、大きくウエーブを描く道を作って、景色の移り変わりや見どころを眺めながらの散策を楽しめるよう設計した場所だ。歩く人のテンポに合わせて足運びが良いように、リズムよく配置する。社長、ちょっと歩いてみな」
佳帆は、トントンと飛び石を渡り、伽藍石で立ち止まって辺りを見渡した。
「あ、ほんと。この伽藍石の上に立ったら、なんやええ感じの風景…」




