【 Tone 1.滋賀 にほの海 】phrase 4 十三仏の虹 ~ This muddy vesture of decay(この朽ちゆく泥の衣)~
- Aureilia

- 5月21日
- 読了時間: 16分
更新日:6月20日
【 Phrase.4 十三仏の虹 】
ロビーに現れた佳帆を流し見て、櫂は片眉を上げた。
「おい、そんな成りでフィールドワーク行けんのか?」
昨夜のシェイクスピアの言葉を反芻し、ほとんど眠れずに朝を迎えた佳帆は、彼のあまりにも普段通りな――いや、むしろデリカシー皆無の第一声に、思わずため息をついた。
「あら、ご挨拶ね。今日は竹生島詣で。弁天様に参拝するのに、ジャージは失礼やろ?」
櫂は、いつも通りの撮影スタイル。インナーウエアの色がダークグレーに変わっているだけの装いに、佳帆はつい真意を深読みして考察を進めてしまった己の早とちりを恥じた。
「俺のはジャージじゃねぇよ、戦闘服だ。まぁいい。被写体としちゃ、絵になるからな」
「もう、一言多いねん!」
今朝の佳帆は、青磁と薄藤をぼかし合わせた近江ゆかりの「近江縮」に、生成地に墨濃淡で琵琶が描かれた描絵(かきえ)の帯を締めていた。菊池契月の水墨画写しである。
三分紐に通されたアンティークの帯留の、波にたゆたう青紅葉の意匠を施した銀細工が、涼を添えている。




