【 Tone 1.滋賀 にほの海 】phrase 3 近江八幡の夜風 ~ This muddy vesture of decay(この朽ちゆく泥の衣)~
- Aureilia

- 5月15日
- 読了時間: 13分
更新日:6月20日
近江八幡。豊臣秀次が開いた城下町。
先にホテルにチェックインを済ませ、身軽になった2人は、夜の水郷の街を歩いていた。
佳帆は歴史的町並みをぐるりと見渡し、また何か閃いたのか、キラキラと子供のように瞳を輝かせている。
お勧めの店として案内されたのは、古い近江商人の町家を改装した趣のある小料理屋だった。
入り口の落ち着いた赤褐色の格子戸を潜る際、櫂は木肌をスッと撫でて呟いた。
「……見事な弁柄(ベンガラ)格子だ」
「ふふ、さすが元左官職人。目の付け所が違うね」
通された奥座敷は、近江特有の「平庭」を見渡せる造りになっていた。枯山水のように石や砂で極端な高低差を作るのではなく、大地の起伏をそのまま受け入れた、平坦でどこまでも静謐な空間が広がっている。

薄明りに照らされた庭に視線を落としながら、佳帆は日本酒のグラスを傾けた。



