【 Tone 1.滋賀 にほの海 】Phrase.10 竹生島に住む兎 ~ This muddy vesture of decay(この朽ちゆく泥の衣)~
- Aureilia

- 7月3日
- 読了時間: 13分
更新日:8月12日
「……終わったか?」
数分後。そうSIGMAの『sd Quattro H』に語りかけながら、満足そうに息を吐いた櫂は、重厚な本体を下ろし、レンズを外しにかかった。
「櫂さん、さっきからシャッター切ったあと、なんかずっと待ってへんかった? 画面、まだクルクルしてんで」
「あぁ? 当たり前だろ。こいつのセンサーが吸い込んだ、数千万年の岩の記憶(FoveonのRAWデータ)はクソ重てぇんだ。一枚書き込むのに平気で十数秒かかりやがる」
「じゅっ……!? スマホの進化と、時代を逆行してはるわ…」
固まる佳帆に、櫂はスモーキークォーツの瞳を細め、ニヤリと笑った。
「だからいいんじゃねぇか」
「……え?」
「シャッターを切る。データが重すぎてカメラがフリーズする。その十数秒間、俺はただ待つしかねぇ……。だがその『何もできない時間』こそが、目の前の岩が俺に『ちょっと待て、落ち着いて俺を見ろ』って語りかけてくる時間なんだよ。……秒間何十コマも連写して、数撃ちゃ当たるイマドキのミラーレスには、この『待つ贅沢』は味わえねぇさ。SIGMAは、常に『進化』してんじゃなく『深化』してんだよ」
これを聞いた佳帆は、「……ほんま、SIGMA信者は変態集団や…」と呆れながらも、彼のその不器用で硬派な美学に、デザイナーとしてシンパシーを感じてもいた。
「……よし、地球の記憶はこれで十分だ。次はあんたの布の番だな」



