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【 Tone 1.滋賀 にほの海 】Phrase.10 竹生島に住む兎 ~ This muddy vesture of decay(この朽ちゆく泥の衣)~

更新日:8月12日

 

「……終わったか?」

数分後。そうSIGMAの『sd Quattro H』に語りかけながら、満足そうに息を吐いた櫂は、重厚な本体を下ろし、レンズを外しにかかった。


「櫂さん、さっきからシャッター切ったあと、なんかずっと待ってへんかった? 画面、まだクルクルしてんで」

「あぁ? 当たり前だろ。こいつのセンサーが吸い込んだ、数千万年の岩の記憶(FoveonのRAWデータ)はクソ重てぇんだ。一枚書き込むのに平気で十数秒かかりやがる」

「じゅっ……!? スマホの進化と、時代を逆行してはるわ…」

固まる佳帆に、櫂はスモーキークォーツの瞳を細め、ニヤリと笑った。

「だからいいんじゃねぇか」

「……え?」

「シャッターを切る。データが重すぎてカメラがフリーズする。その十数秒間、俺はただ待つしかねぇ……。だがその『何もできない時間』こそが、目の前の岩が俺に『ちょっと待て、落ち着いて俺を見ろ』って語りかけてくる時間なんだよ。……秒間何十コマも連写して、数撃ちゃ当たるイマドキのミラーレスには、この『待つ贅沢』は味わえねぇさ。SIGMAは、常に『進化』してんじゃなく『深化』してんだよ」

これを聞いた佳帆は、「……ほんま、SIGMA信者は変態集団や…」と呆れながらも、彼のその不器用で硬派な美学に、デザイナーとしてシンパシーを感じてもいた。


「……よし、地球の記憶はこれで十分だ。次はあんたの布の番だな」

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