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【 Tone 1.滋賀 にほの海 】phrase1(解説) | The secret of the backstage

更新日:7 時間前


東風吹かば 匂ひおこせよ 梅の花 あるじなしとて 春を忘るな(春な忘れそという説もあり)

 

2人が出逢った124年振りの朔旦立春では、まだ冷たかった風も、25日も過ぎると梅がほころび始め、京都では北野天満宮で「梅花祭」が開かれます。

そんな麗らかな日々とは裏腹に、2021年の春はコロナ禍による緊急事態宣言下で、外出制限がされていました。

櫂が「とりあえず帰国する用に持っておくか」と用意した格安スマホには、京都と九州という600kmの距離をものともせず、連日のように佳帆から送られて来る、大容量の熱い「論文メール」が届いていました。



彼の元には、連日のようにピロン、ピロンと通知が届いていた。

『件名:Re: 緊急事態宣言ですね。長命寺の由来について』

『件名:Re: Re: 追記・長命寺と武内宿祢、聖徳太子の関係』

『件名:Re: Re: Re: 再度追記・瀬田の保良宮を舞台にした、道鏡の宇佐八幡宮神託事件の発端と、人物関係』

『件名:Re: Re: Re: Re: フェリー再開したら行きたい竹生島と、弁財天の本地垂迹』

『件名:Re: 2月東寺データ|感動!世界に分布する白い布への祈りと考察』

メールボックスに届く、京からの東風(こち)。

「……またかよ。ほんと、こいつの頭の中どうなってんだ」

 

佳帆は出版社社長であり、デザイナーです。

そのため、使用ソフトは手軽な携帯アプリなどではなく、常にプロ用のADOBE社「Lightroom」に「Photoshop」というガチ勢。

当然今まで組んできた写真家達やブックデザイナーとも印刷用データでやり取りしています。

 

対して、イギリス暮らしが長い櫂は、日本で主流のLINEではなく、WhatsApp (ワッツアップ)ユーザーです。さらに、機材にはポンと大金を重課金するくせに、服装には無頓着。そして基本的にはフィルムカメラが至高だという美学を持つAT音痴のため、facebookやSNSは、アカウントをつくったまま放置という有様。


メールか電話しかないという古典的な選択肢の中、佳帆ははじめ櫂にSMSで写真を送ろうとしますが、容量オーバーで返ってきてしまいます。

「あれ?故障かな?それとも櫂さん、九州での撮影中で電源オフにしてるのかな?」

そう思ってあれこれ試した結果、自分の送った画像の画素数が驚異の350dpi(高品質印刷向け)のままだったと気付き、その後櫂にメールを送る時は「ギガファイル便」を使うようになります。

そして、櫂の格安スマホの容量を容赦なく圧迫する、佳帆の「論文メール」は投下され続けるのでした。

※350dpi=デザイナーが印刷する場合の最低必要画素数のこと。必要なピクセル数は1インチ(25.4mm)あたり350ピクセル。A4サイズ(210×297mm)では約2,894×4,093ピクセルとなり、高解像度ゆえに激重データです。

 

それから何度かやり取りするうちに、佳帆が気付かずに印刷用画像データ付きのまま送ってしまったことがあり、スムーズに櫂からリプライが来たため、

「あれ?櫂さん、携帯変えました?」

「お前がくそ重てぇ画像つけて連日送ってくるからだろうが!」

という会話につながったのでした。

 

 

櫂は呆れたようにため息をつきながらも、その長すぎるメールを一文字残らず、何度も読み返していた。閉ざされた世界の中で、唯一感じられる光源を現像するために。

Google MAPでロケ地の地形を確認し、照度と露出をイメージングしては、入射光を測定していた…、とは口が裂けても言わない。

 

佳帆のオタク歴は30有余年という筋金入りです。また、日々古典籍や論文にふれているため、自分の日本史・世界史の知識量が天文学的な数値になっていることに、自分では気づいていません。

相手も当然「学校で習ったやろ。歴史上の人物名は試験のために暗記したよね」と思っているため(佳帆は偏差値69です)、聖徳太子や聖武天皇くらいは聞いたことがある、という理系脳の櫂に対して、「孝謙天皇がね、称徳天皇がね…」と並び立てます。

 

佳帆が繰り出す難解な歴史用語を受けた櫂は、ひっそりググり、

「孝謙天皇?誰だそれは。あ、聖武天皇の娘か。正倉院の奴だな。ふむふむ。称徳天皇?ああ?孝謙天皇と同じ奴じゃねぇか!表記は統一しろよ!」

と、佳帆に怒りのメールを送るのでした。

※孝謙天皇、称徳天皇=実は重祚(ちょうそ)しているため同じ人。

 

 

中には現代日本語では使われない言葉も出てくるため、その度に、櫂はGoogle検索をかけることになります。

 

櫂は、最初「本地垂迹」という言葉が読めませんでした。

そこで、密かにネットで検索し、下記の答えを得ます。



 



「本地垂迹(ほんじすいじゃく)」とは、日本の神々は、仏教の仏や菩薩が人々を救うために「仮の姿」となって現れたものとする思想です。

ご質問の「ほんじなんたら、衰弱?って誰だ」は、文脈から「本地垂迹(ほんじすいじゃく)」のことであると推察してお答えします。


💡 本地垂迹の基本概念

  • 本地(ほんじ): 本来の姿である仏や菩薩。

  • 垂迹(すいじゃく): 跡を垂れる(あしあとを残す)こと。日本の神として現れた仮の姿。

  • 背景: 平安時代中期から広まり、神道と仏教を融合させる「神仏習合」の理論的支柱となりました。 


🐍 弁財天の本地垂迹

弁財天(弁才天)はもともとインドの聖なる河の女神「サラスヴァティー」ですが、日本においては以下の神々と結び付けられました。 

1. 市杵島姫命(イチキシマヒメノミコト)

  • 最も一般的な本地垂迹の組み合わせです。

  • 宗像三女神の一柱で、水の神・海の神として崇められています。

  • 例:広島県の厳島神社などは、明治の神仏分離まで弁財天を祀る寺院と一体でした。

2. 宇賀神(ウガジン)

  • 日本独自の神で、蛇の体に老人の頭を持つ姿をしています。

  • 五穀豊穣の神として、弁財天の頭上に載る姿(宇賀弁才天)で習合されました。


⛩️ 主な弁財天(本地垂迹)の聖地

  • 竹生島(滋賀県): 都久夫須麻神社(市杵島姫命)= 宝厳寺(弁才天)

  • 江の島(神奈川県): 江島神社(宗像三女神)= 旧・金亀山与願寺

  • 厳島(広島県): 厳島神社(市杵島姫命)= 大願寺

 

 

ここでようやく佳帆が言いたかったことが日本三大弁財天の竹生島に祀られている弁財天のルーツのことであり、序章で2人が交わした会話を振り返っていたことに気付くのでした。


「…そんな名門じゃねぇよ。育ちは新潟だが、生まれは江の島なもんでね」

「江の島!日本三大弁財天の?私、前から行ってみたかったの!」

「そういや、最初のロケ地の予定は竹生島だって言ってたな」

 

櫂にとって、生まれ育った江の島は、心の一番やわらかいところを刺激する心象風景です。

江の島については、第7巻で詳しく触れる予定です!


歴史の宇宙語を喋る特攻型社長と、それに翻弄される不憫な職人型カメラマン。2人の絶望的なすれ違い(Star-Crossed)は、ここから始まっていたのです。



▼ 次話、Tone 1 phrase 2 を読む




▼ phrase 1 をもう一度読む




※今後、解説記事は月額「現像プラン」の対象となります。


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